『万葉集画撰』とは
日本画家であり、同時にアララギ派の歌人でもあった観風は、『万葉集』をこよなく愛し、万葉集研究にも没頭し、万葉歌人評伝も連載していた。
1940年(昭和15年)皇紀2600年の奉祝を機に、橿原神宮に献納すべく、『万葉集』の歌の世界を、日本画で表現することを決意。4516首の『万葉集』の中から71首を選び、当時できうる限りの万葉集研究をして、歌の詠まれた万葉故地に赴き、その地に立ってスケッチ、取材を行って、万葉歌を書で添えた日本画の連作として制作した。
万葉歌の解説は観風と親交のあった文学者、佐佐木信綱、斎藤茂吉、折口信夫、武田祐吉、澤瀉久孝が担当。万葉歌の解釈を絵でどのように表現したかを、観風本人が解題として記し、『万葉集画撰』71連作は、経開きの絵巻物として完成された。
1940年(昭和15年)『万葉集画撰』を第四回個展で発表し、注目を浴び、引き続き五回目の個展でも発表。
『万葉集画撰』展覧会の案内状には、画家 小杉放菴、小室翠雲、文学者 佐佐木信綱、斎藤茂吉、折口信夫、吉川英治らの文章が掲載されており、当時の観風の交友関係がしのばれる。
展覧会後、作品は橿原神宮に献納された。戦後に奈良県立橿原図書館万葉文庫に移管され、現在は、一画面ずつの額装の形で、奈良県立万葉文化館に所蔵されている。
『万葉集』の歌の情景が、研究に基づく正確性を保ちつつ、その上で、南画を取り入れた独自の画風で豊かに表現した点に特徴がある。画風はおおらかで柔らかく、万葉画としては珍しい動きのある絵が、色彩豊かに表現されている。芸術的側面と当時に、歌の場面を想像する大きな助けともなる本作品は、令和の時代に、新たに注目を浴びる『万葉集』の学びの入り口としても非常に価値ある作品である。
『万葉集画撰』作品一覧
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第1図 雄略天皇御製(0001)
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第2図 香久山望國の御製 舒明天皇(0002)
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第3図 御狩獸歌 中皇命(0003)
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第8図 天ノ香具山の御製 持統天皇(0028)
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第18図 不盡の山を望める歌 山部ノ赤人(0317)
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第20図 宴を罷る時の歌 山上ノ憶良(337)
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第28図 日本琴の歌 大伴ノ旅人(810)
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第29図 太宰府梅花宴の歌(三十二首は 815~846)
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第43図 筑波嶺嬥歌會の歌 高橋蟲麻呂歌集(1759)
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第44図 親母遣唐使に從ふ子に贈る歌 作者未詳(1790)
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第63図 陸奥ノ國の黄金を賀し奉れる歌「一」 大伴ノ家持(4094)
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第64図 陸奥ノ國の黄金を賀し奉れる歌(海ゆかば)「二」 大伴ノ家持(4094)
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第65図 陸奥ノ國の黄金を賀し奉れる歌(山ゆかば)「三」 大伴ノ家持(4094)